そして窓から見えるのは、商店街の背の低い街並みとその彼方に黒々と横たわる山脈の断片。都会でもなく、かと言って田舎くささを感じるでもない絶妙な風景だ。
 その風景をぼんやり見ながら、ここを待ち合わせの場所に選んだ千佳子のセンスに、改めて納得する憲治。以前から大人びたところのある少女だった。今の千佳子は、どうなのだろう。あの頃彼女自身が憧れていたような女性になったのだろうか。
 小学校、中学校と同じクラスだったから、千佳子とはそれなりに会話もあった。だが、どうでもイイ話ししかしなかったように思う。特別なことは、何もなかった。