旧国道と駅前通り。互いの商店街の合流する交差点の角。「PAVANE」はそこの角にある喫茶店だ。憲治は店の前の歩道にバイクを止めた。
 なぜ、今頃。その言葉を憲治は何度も胸のうちに繰り返し、千佳子に会いたいと言うよりも、「なぜ、今頃」を消さんがためにここに来ている感じだった。
 憲治は「PAVANE」のドアの前で、ほんの少し立ち止まった。千佳子の笑顔を思い出していた。だが、千佳子の笑顔はいつも横顔だった。千佳子の笑顔を正面から見たことはあまりない。