スピリット・オヴ・サマー

「もしもし。」
『…、』
 電話の向こうで沈黙がノイズを晒す。憲治は今一度「もしもし」と言おうとした、が、それをさえぎって受話器の向こうがためらいがちに訊ねる。
『…憲治、君…?』
 憲治は軽く痙攣した。
 この声は覚えている。憲治の知っているその声よりも、幾分落ち着いた感じはするが、それでもその声の主を知っている。
 千佳子だった。あの「千佳子」ではない、生身で、成長を続けた千佳子だ。多分。
『…違った?』
 声は不安そうに確かめる。