スピリット・オヴ・サマー

「分からねぇなぁ…。」
「彼女。」
　父が、ぼそっと言った。憲治はしかめっ面で返した。
「だからぁ、いねえってばよ。」
　「おかわり」と言って皿を突き出す憲治。母は受け取りながら、
「淋しい限りだなァ、青年。」
と少し笑った。
　じゃりーん。
　居間の黒電話が鳴った。
「ほーれ、彼女だァ。早ぐ出ねぇば切れるどォ。」
　父の冷やかしを背にして憲治は電話を取った。