スピリット・オヴ・サマー

 ただ、活字の海を眺めていると、「憧子」の言わんとしていたことや、しかし憲治の知識が及ばないばかりに分かったような分からないような返事をしていたことが、分かった気になっていた。
 今の憲治にはそれで十分だった。そうでもしていないと、「憧子」の姿を思い浮かべただけでどうしようもない淋しさに襲われる。かと言って、忘れることもできない。忘れないためにもドビッシーを聴かなければならなかった。矛盾していることは分かっていたが、今はそれが一番だと憲治は感じている。