自室に戻った憲治は小学校以来使っていた机に向かい、自分で持ってきたCDプレーヤーに「ドビッシー」をセットする。
 やがて流れる「月の光」。
 あの、仄白い音楽室での出来事が、憲治の心の湖面に浮かび上がる。
 「憧子」が笑う。
 「憧子」が俯く。
 「憧子」の、胸。髪。首筋。
 「憧子」が目を閉じる。
 「憧子」の、唇。
 「憧子」が、泣く。
 今になって沸き上がる「男」の衝動。だが、睡魔がそれに打ち勝ったとき、眠りの淵で憲治は舌打ちした。