Tシャツの裾をまくり上げる。バイクのキーを弄ぶ。そしてつぶやく。
「閉じてる。」
 魂の底から滲むような言葉だ。
 憲治は視界を下げる。ぐるり見回せど、彼方の黒い山肌にはどこにも切れ間なく、まして、地平も水平も眺望(のぞむ)べくもない。
 山脈に、その裾野に集落を点在させ、単線の鉄路とそれに寄り添って伸びる2車線しかない国道を生命線にして、止まりかけの古時計に似た時間の中で、それなりの広がりを見せてきた田園地帯。それが憲治の故郷だ。