スピリット・オヴ・サマー

 不安、欲望、後悔、罪、恋、夏、月、「憧子」。
 でたらめに浮かんでは消える様々な言葉。
 これ以上はないほどに近くで感じる「体温の匂い」の中で、憲治の心は、破裂しそうな空白へと落ち込んで行く。
 「憧子」の髪、「憧子」の腕、「憧子」の胸、「憧子」の唇。
 ぬるい水の中を、身動き一つ出来ぬまま漂っていくイメージ。
『…好き…。』
 憲治の唇の下で、「憧子」の唇が微かに動く。そして、互いの唇の間に涙の味がにじんだ。「憧子」の涙。精霊の、涙。