スピリット・オヴ・サマー

 「憧子」は教室の前にあるグランドピアノの蓋を開けながら、「リクエストは?」
と憲治の方を向いた。月明かりの中で「憧子」は少し微笑んでいる。ほっとする憲治。また、逃げた。そして、また赦されてしまったのだ。
 安心と後悔の入り混じる中、憲治もピアノに歩み寄りながら、「なんでもいい。」
と答えた。
「まったく…、主体性のねぇヒトだァ…。」
 半ば予想された答えだと言わんばかりに、あきれた風な溜め息をつく「憧子」。ピアノの前に腰掛けて、
「じゃあ、おらの好きな様にやるど?下手だ、とか文句はナシだァ。いいべ?」。