「こら、待てっ、憧子っ!」
 憲治も子供じみた本気で追いかける。何時しか憲治の顔にも、幼い笑顔が満ちていた。
 分かっている。奇麗だ。奇麗すぎるのだ。「憧子」はもちろん、「憧子」の居る風景が、時間が、そして下手をすると、その中の一つである自分をさえ。美しい風景画の中に、自分のカタチとココロが溶け込んで行く感じだ。そして、思い出した。「少女(=憧子)」のあの言葉を。
「もう、会えない。」
 憲治は鼓動の中で思う。
 今夜が「最後」になるかも知れない。
「憧子っ、憧子っ!」
 憲治が叫んだ。
「憧子っ、ありがとう!俺、俺、今、めちゃくちゃ嬉しいよっ!」