北校舎の入り口の鍵は、「憧子」の指の一鳴りであっけなく外れてしまった。「憧子」は風に舞う様に楽しげなステップを踏み、月光の回廊の光と闇の交差の中を行く。「憧子」が通過すると窓は独りでに、ドミノ倒しの連鎖で明け放たれていく。夜風が優しく流れ込む。
「おいよう、待てよ、」
 バタバタと追いかける憲治。
「あははははっ、憲治さぁん、おらどご捕まえでみれェッ!」
 「憧子」は笑いながら、さらさらと黒髪をなびかせて跳ねて行く。闇に消え、月光に浮かぶ月面のスキップ。