どちらも味わったことがあるのに、同時に二つがあることは初めてだった。例えるならば、千佳子の傍に居て「これが聖菜だったら」と思い、聖菜に寄り添われて「これが千佳子だったら」と思ってしまった、そのちぐはぐな二つの身勝手が一つになった、とでも言えるのだろうか。
「そうかぁ…。」
 憲治は自分なりの結論を見いだして、一人、つぶやいた。だが、そのために、それを例えるために、嫌な言い方を思いついてしまったと、一人でかぶりを振った。
「嫌な奴だな、俺は…。」