夜。月と星が闇を支配する。
 人気の絶えた校舎の裏。月光をあまねく受けとめて、グラウンドは青白く光り、さざ波の湖面を思わせる。
 その湖畔にあたる土手の、体育館の用具室に接する端の部分に、ざわざわと黒い葉を茂らせた夏の桜。憲治はその横にバイクを止め、桜の幹に寄りかかって「少女」を待った。
 憲治が弄ぶ、自分の心に芽生えた、不安定な感情。
「…分かってるんだよなぁ…。」
 千佳子の傍に居たときのドキドキした気持ちと、聖菜に寄り添われていたときのふわふわした気持ちが、今、憲治の中で一つになっていた。