耳元でささやく「少女」の言葉に、憲治は静かに目を閉じた。
「ありがとう…。」
 感謝の言葉が、零れた。
 もう一度、ありがとう、と言いたくて口を開こうとした瞬間、憲治の「脳」にその言葉が飛び込んだ。
『もう、会えない。このままでは、あなたを殺してしまう。』
 驚いて目を開ける憲治。途端に腕の中から「少女」の感触が消え、暮色の紫紺の中、憲治は独り、廊下に立ちつくしていた。
「会いたいよ。それでも。」
 憲治はつぶやく。
 夜が、来る。

第2章「慕情」 終