あの頃の、ただ嬉しかった頃の彼女の笑顔が、憲治の心を締めつけた。むさくるしい木工室、土曜日の午後、嬉しそうに、少し恥ずかしそうに弁当を持ってきた「聖菜」。自分の誕生日の前日、プレゼントを探して一緒にデパートを歩いた「聖菜」。放課後の廊下で交換日記を手渡す「聖菜」。
 今現在にいたっても「彼女」などと呼べる存在に恵まれない憲治にとって、後にも先にも「聖菜」は特別だった。バレンタインも、ラブレターも、交換日記も。
 そして「裏切り」も。
 憲治は思わず拳を握り締めた。