「…『聖菜(みな)』…。」
 憲治はその少女の名を呼んだ。だが、そのそばかすが少し浮かんだ童顔を直視することは、今の憲治には無理だった。
「お元気そうで…、」
 東京暮らしが長かったと聞く、訛りの少ない澄んだ声。その言葉途切れる様も、憲治には苦痛だった。
「本当に…、良かった…。」
 しゃくり上げる少女「聖菜」。俯く憲治の肩に「聖菜」の華奢な指が触れる。
「先輩…、先…っ、」
 やがて「聖菜」は憲治の肩をつかみ、その背に顔を埋めて嗚咽を漏らし始めた。