「お急ぎになるあまり、お怪我等されては大事ですよ」




源三郎はそう言うが、それはからかいだ。



俺の乗馬の腕は、源三郎が一番よく知っている。








「早く見てみたいではないか、森山の姫をな」

「保明様の奥方様になられるお方ですからね」

「政略だがな」

「ですが、殿のご命令とあらば、拒絶なさる事はできません」









そうなのだ。







今年元服を迎える俺に、殿…父である八嶋秀久は、妻を娶らせるそうだ。



隣の領主である、森山義元の娘をだ。





それが政略である事は明白。


要するに人質だろう。




それは、当然の事。


規模で言えば、八嶋の方が力量は上。







今回、この話を持ち掛けてきたのは森山からだ。


ぜひ、当家の姫をと。






それは、力の上下関係の位置を示す。



我々は八嶋には逆らいません、うまく付き合って下さい、と言う意味だ。









聞く所によると、姫は側室の娘であるらしい。



正妻との間に、女児は恵まれなかったそうだ。







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