「春人、パース!」

桜の咲くころ。
その声で半分、ぼーっとしていたオレの意識が戻る。
あわててボールをけり返した。
すると、コントロールが悪かったのか、変な方向へとんでいってしまった。
「何やってんだよ…」
半ばあきれた顔で言うのは「志田 嵐」
こいつにはクールという言葉が合うように、いつも冷静なやつ。

「もー!拾ってくるよ」
駆け出していったのは「守山 宏樹」
なんていうか、優しいというか穏やかな性格。
…怒るとある意味怖いけど。

そして、オレ。
「南野 春人」
ごくごく普通の中学2年生。
よく宏樹に、無愛想だから何を考えているのか分からないと笑われる。
確かに皆より口数は少ない。
ただ、何も興味が持てなかっただけ。
今まで続けてこれたのは、サッカーくらいだった。

お決まりの2年生3人組。
今日も、病院の前にある「広場」でサッカーをしていた。


ふと、広場の隅にあるベンチに目が止まる。
あぁ、やっぱりいた。
ベンチに座っていたのは1人の少女。
いつもここに座ってオレ達のサッカーを見ていた。
「何やってんだ?」
いつの間にか2人ともオレの隣に来ていた。
「別に、何も…」
宏樹はボールを片手でもてあそびながらいった。
「いつもいるよね、あの子」
「入院してるのか?」
「そうなんじゃないかな?かわいいよね~」
2人が話しているのをなんとなく聞いていた。

なんだか少女のことが気になってしまう。
どうしたんだろう…?
その後もモヤモヤしたまま、サッカーを続けた。


「あぁー!?」
宏樹がいきなり叫んだ。
「どうしたんだよ?」
嵐はボールを操りながらも聞く。
「門限過ぎてる…」
時計を見るともう6時になっていた。
「やば…!」
「早く帰ろうよー!」
多くはない荷物をバックの中に入れた。

帰りがけに、ベンチの近くを通ると、そこには少女の姿はなかった。
「いない…」
思わず呟いた。
「春人ーいくぞー?」
嵐の呼ぶ声がする。
「今、行く」
もう一度振り返って、ベンチを見た。
ぽつんと一つだけ置かれたベンチは、あの少女のように、寂しそうに思えた。