そう言えばあの夏、確かに俺はクラスメートと付き合っていた。


「高校の前まで確かめに行ったの。あなたが女の子と校門から出て来たのを見て、『負けた』って思った。美人だったし、頭も良さそうだったし……それでも、夏休みの間は待っていたの。わたしは特別だから、きっと彼女がいても『遊びに行こう』って誘ってくれるって」


俺はため息をついた。


「お前、受験生だったんだぞ。俺から誘える訳ないだろう?」

「わたしもそう思おうとした。でもね、わたし達の関係っていつもそうだったじゃない。わたしが誘ってあなたが受ける。あなたはわたしのわがままを聞いていてくれただけ。だから、スッパリ諦めたの」


諦めた? 胸にグサッと刺さる言葉だ。


「急に髪を染めたり、濃いメイクをし始めたのもそのせいか?」

「うん。違う自分になりたかったから」

「なれたか?」

「見た目を変えたって中味が変わる訳じゃないって分かっただけ」


俺は深呼吸した。


「俺が嫌いか?」

「ううん。でも、もう傷つきたくない」

「俺と付き合ってくれないか? お前は今でも俺の『特別』だよ」


美幸は啜り上げながら『ダメ』と言った。

もう手遅れってことか?