晴天の教訓


船上員にチケットを見せながら私は彼に

「そう言えば、変な事に付き合わせてごめんね。岬ヶ丘くんはこんなの興味無いでしょ?」

と言った。

船と陸とを繋ぐ細い板に足を踏み出そうとしていると、彼は半ば強引に私より先に板に乗って歩き出した。

そして中程の辺りで

「あのさ、名前、下の名前で呼んでくれない?俺も先橋さんの事、下の名前の鳩葉って呼ぶからさ」

と言われた。


“こいつは何を言っているんだ?”

正直こう思った。

本当なら「何様のつもりだ!」と叱責してこの場を去りたかった。

しかし、荷物の入った鞄は彼の手の中だし、何年も前から行きたかった場所にやっと行けるのだ。

こんなシチュエーションでそんな事は出来るはずがなかった。

「ごめん。私、下の名前では呼ばない、呼ばれない主義なんだ」

淡々と私がそう答えると彼は、小さく

「そうか、わかった」

と言って、前を向いた。

そして次の一歩はやたらと板が軋んだ。