甲板にでると既に目的地は見えていた。
私はカメラを構えると、興奮しつつ写真を撮り続けた。
そして私は彼に自分が知る限りの知識を話した。
あと五分もせずに着くと言うところで突然に彼が口を開いた。
『五月蝿い。黙れ』
カメラから目を話すと彼はいつもと変わらない紳士的な笑顔のままだった。
「岬ヶ丘、くん?」
私がそう名前を呼ぶと彼は無理矢理に私の腕を掴んで船尾へ連れて行った。
目的地を目前にした船尾には誰もいなかった。
船尾はエンジン音が五月蝿く、多少の物音は聞こえなかった。
彼は私を力任せに押し倒した。
高い位置から鉄製の甲板に頭を打ち付け目がチカチカした。
目を開くと、すぐ側に彼の顔があった。
表情はあまり変わっていなかった。
それでも苦虫を潰したような、そんな表情ではあった。
そして彼は腹の底から出したような低い声でこう言った。
「なんで俺は見てくれないわけ?俺はこんなに鳩葉をずっと愛してるのに、何で鳩葉はわかってくれないんだよ」


