そんなあたしをよそに、祈ちゃんは怒って部屋を出て行った。

心臓は相変わらず何度も大きく高鳴っているけれど、出て行った祈ちゃんが気になる。


耳を澄ませば、水道の蛇口をひねる音が聞こえた。

そして……水の流れる音も。



「……まったく……。やっぱり祈はまだまだ子供だな……」

潤さんの微笑む姿に、あたしの心臓はまたドクンとひとつ鳴った。


「祈のこと、ごめんね」

そう言って、潤さんは祈ちゃんが出て行った扉からあたしの顔へと視線を戻す。

あたしの顔が真っ赤になっていることに気づかれたことは言うまでもない。


――ああっ、もうバカバカ!!

あれはただ祈ちゃんに歯磨きをさせるための言葉なのに!!

真っ赤な顔をしたら意識してるってバレちゃうじゃない!!


それに、彼には亡くなったとはいえとても素敵な奥さんがいる。

こんなふうに顔を真っ赤にすることこそおかしい。


自分に叱咤(シッタ)している中、どうやら潤さんもあたしの真っ赤な顔を見てさっきの一言を思い出したらしい。

何か言おうと口を開けたと思ったら、また口をつぐむ。

パクパクと開閉を繰り返し、そうしてやっと薄い唇から出てきた言葉は、とても聞き取りにくいものだった。


「……あ、えっと……その……一緒に……寝るっていうのは…………」

人差し指で自分の頬を掻き、口ごもる。


男の人でも照れることってあるんだ。

そう思ったのは、慶介では見たことがない表情と仕草をしていたからだ。



潤さん……とても可愛い。