潤さんは、熱が出て、うずくまっていたあたしを拾ってくれた。

それどころか、看病もしてもらって、しかも夕飯までご馳走になった。


それなのに、あたしは潤さんに何のお礼もしていない。



このまま何もせずに家に帰っては申し訳が立たない。

せめて今日の夕御飯代だけでも潤さんにお渡ししよう。


手にしていたカバンを開け、中を見た瞬間――。


あたしの手が止まった。

昼間の記憶が現実に引き戻す。とたんに心の奥底で沈んでいた悲しみがあたしを襲う。


あたしが見たカバンの中――そこには自己主張をしている分厚い茶封筒があった。

茶封筒には慶介(ケイスケ)に無理やり手渡されたお札の束が入っている。

もちろんそれは、あたしのお腹の中にいる赤ちゃんを助けるものでもなければ、あたしを幸福へと導くものでもない。


赤ちゃんを中絶するためのもの――。


――そう、あたしのお腹には赤ちゃんがいる。

仕事、家、そして赤ちゃんごと、慶介はあたしの幸せを全部奪った。



……ああ、あたしはなんてバカなんだろう。

どうして今日あった昼間このことを忘れ、笑うことができていたんだろう。


言い知れない自己嫌悪と一緒にやって来た悲しい感情があたしの心の中を駆けめぐり、それによって吐き気が襲ってくる。


不安要素がありすぎて、パンクするんじゃないかというくらいあたしの頭の中を勢いよくグルグル回る。

慶介に捨てられたという想いが胸を締めつけてくる。