こういうイライラしていない時の慶介のことはとても好き。
困っている時は助けてくれるし、とても優しい。
でも…………彼はとっても気が短い。
それが、たまにキズ。
あたしは慶介によってできた不愉快な乾いた音を耳に入れながら、ゆっくりと話していった。
物事には順序が大切だ。
とりわけ、これから話すとても大切なことに至っては――――。
「あのね、慶介」
ごくりと唾を飲み込んで、ゆっくり話そうと心がけるものの、今の雰囲気で『そのこと』を口にするのはとても不似合いのような気がした。
「あたし……赤ちゃんができたみたいなの」
だからつい、あたしはひと息に話してしまった。
今日という日が来るまで、正直慶介に言うか言うまいかとても迷っていた。
だけど、自分のお腹にいる子は間違いなく彼の子だし、いつかは打ち明けなければならないことだ。
だからあたしは一大決心をして慶介をデートに誘い、今、こうして彼に伝えた。
自分を慰(ナグサ)めるようにして、下を向いてお腹をそっと撫(ナ)でる。
そうしたら、なぜか心があったかくなるような感じがした。
これでいいのだとそう思える。
お腹の子は彼の子だ。
そう実感すると思わず笑みがこぼれだす。
このお腹にいる赤ちゃんは慶介とあたしのどっちに似るのかな?
女の子なら、うんと可愛くなってほしい。
男の子なら慶介みたいにカッコよくなってほしいな……。