申し訳なく話すぼくに、祈は案の定、椅子から降りてフローリングの上に腰をおろす。

そうして両足をフローリングに叩きつけた。


「イノ、いつものスパゲットがいいっ!! こんなふにゃっていうのヤだ!! ヤだヤだ!!」

何度もフローリングにかかとをぶつけるたび、食器棚に収納している皿や茶碗が小さくぶつかり合い、自分たちの存在を雄弁(ユウベン)に語ってくる。



祈はかなりご立腹のようだ。


「祈……ほんっとにごめん!!」

ぼくは、もう謝ることしかできなかった。

顔を上げて祈の純粋な目を見ることなんてできるわけがない。


なにせ、パスタを茹でるのに失敗したのはぼくが彼女に見惚れていたからだ。

不純な動機があったんだ。責められても仕方ない。

そのせいで夕食を台無しにしたなんて、ほんとに自分が情けなくなってくる……。


明日から、ぼくはこのことで永遠ともいえる時間を祈に責め続けられるのだろうか。

そう思うと気が遠くなる。



「ねぇ、祈ちゃん」

癇癪(カンシャク)を破裂させている祈に話しかけたのは、祈が雨の中で見つけた彼女だった。



彼女はしゃがみこみ、地鳴りを起こしているご立腹の祈と目線を合わせた。それからそっと、ささやくように優しく話しはじめる。



「パパはね、一生懸命祈ちゃんのためにご飯つくったんだよ?」

その姿は、自分と祈は対等な立場であると、そう言っているようだった。


そんな彼女の態度に、ぼくの胸がまた、あたたかくなった。