「これでおあいこだ」
「え?」
頼むから、もう罪悪感いっぱいな表情でぼくを見ないでほしい。
そういう意味で口を開け、ぼくは彼女に告げた。
だが、案の定、たったひとことではぼくの意図が伝わらなかった。
彼女は首をかしげて大きな目を瞬(シバタ)き、キョトンとしている。
その表情も可愛いな……。
彼女がするどの仕草もぼくにとってはとても新鮮で、胸をあたたかくしてくれる。
思わず口元がゆるんでしまう。
「君はぼくの頬を叩き、痴漢呼ばわりした。そしてぼくは火傷をして、君に手当てしてもらった。だからおあいこだ」
そう言うと、彼女はようやくぼくが言いたいことを理解してくれたらしい。大きな目をさらに大きく見開き、口をぱっくり開けている。
彼女の目が――唇が――そんなことを言うなんて信じられないと告げていた。
彼女はとても表情が豊かだ。
「あの、でもごめんなさい。看病までしてくださったのに失礼なことも言ってしまって……。あの、痛くなかったですか?」
しかし、彼女はとても律儀(リチギ)な女性だ。
驚いた表情を見せても、それはほんの一瞬でしかない。
彼女はふたたび眉をハの字にして、痴漢呼ばわりしたことと叩いたことを謝罪してきた。
「こちらこそ、何の説明もしていなかったからいけなかったんだ、ごめんね」
ぼくは彼女の笑った顔をまた見たいと思って、できるだけ優しい声音で答えた。



