両手鍋から噴き出したお湯が見えた。

お湯はポコポコと泡を噴き出し、火がついている金属部分のバナーヘッドへとこぼれ落ちてシューシューと音を立てていた。


ああ、大変だ!!

このまま放っておいては火事になる。


慌てたのがいけなかったとそう思ったのは後の祭りだ。火を消すため、伸ばしたぼくの右手が鍋の金属部分に触れてしまった。


「あちっ!!」


突然与えられた強烈な熱で瞬時に手をひっこめたものの、コンロの火を止めることに成功した。


噴き出したお湯が引いた後に見えてくるのは、鍋の中で広がるヨレヨレの姿になった哀れなパスタだ。


しまった……パスタを長く茹ですぎた。


などと思ってももう遅い。

唯一残っていた2人分のパスタは見るも無残な姿へと成り果てた。





――それは昼間。

祈と共に外食をした帰りのことだ。

祈は母親が欲しいと駄々(ダダ)をこね、デパートを抜け出して大雨の中を走り去ったあの時――。

おかげでぼくはビニール袋に詰め込んでいた食材を手放し、彼女を追いかける状況に陥(オチイ)った。


今日の夕食はすべて、デパートの出入り口に置いてきてしまった。

だから当然、この家の冷蔵庫には余り物の食材しかないわけで……。

茹ですぎたパスタの代わりはもうない。


ぼくは金属部分に触れてしまったジンジンと痛む右の手の甲を押さえながら、夕食をどうしたものかと途方に暮れる。