ぼくは腕の中で眠っている彼女をすくい上げると敷布団の上まで運んだ。


そんなぼくの心境といえば――。

彼女の体温をもう少し感じていたい。
抱きしめていたいというものだったのは言うまでもない。



――――――。

――――――――――。



午後から降り出した雨は当時よりもずっと小降りにはなっているもののまだ降り止まず、シトシトと静かな雨音が窓辺から聞こえている午後6時――。


祈はご機嫌で台所にある4人掛け用のテーブルをひとりで占領し、椅子に座っている。



「きょうのごはんは、スパゲット、スパゲット!!」


祈は即興で作ったのか、おかしな歌を口ずさみ、その音楽に合わせて右手にあるプラスチック製のフォークの柄を下にして、コンコンとテーブルを叩いていた。


祈が言う『スパゲット』というのは、いうまでもない。

スパゲティーのことだ。


普段、祈はいったいどこで覚えてきたのかというほどの辛辣(シンラツ)な物言いをするくせに、彼女はいまだにその言葉をうまく言えなかった。


どんなにしっかりしていたとしても、彼女はまだ5歳。

れっきとした子供なのだ。



その祈がいる長方形のテーブルには何も乗っていない。

それなのに、彼女はすっかり夕食を食べる気満々だ。

だけどね祈さん、夕食はまだ支度途中ですよ?


台所の炊事場で夕食を作るのに必要な器材を用意しているぼくの背中越しから聞こえてくるおかしな歌を聴きながら、心の中で突っ込みを入れる。