5回目の『ごめんなさい』を言い終えたあたしはまた畳に頭を押し付ける。

だけど、その体勢は長くは続かなかった。


突然あたしの腕が前へと引っ張られ、体ごとあたたかい何かに包まれたからだ。

トクン、トクンと規則正しい心音が耳元で聞こえる。


だから、あたしがいるそこは男の人の腕の中だと知った。


あたしのことを何ひとつ知らないこの男の人。


それなのに、彼はなんて優しい人なんだろう。

『痴漢』と罵(ノノシ)って叩いたのに、それでもこうしてあたしを包んでくれる。


「ごめん、ぼくの方が悪かったんだ。君は熱を出していて感情がうまくコントロールできていないのに、大声で怒鳴るなんてどうかしていた」


……ポンポン。

大きくて骨ばった手があたしの頭を撫でてくれる。

慰めてくれているんだろうけれど、今のあたしにとって、それは逆効果だ。

泣き止むどころか、その優しい手のせいでよけいに泣けてくる。


「……っつ…………っふっ……」


そうして泣き止むことがいよいよ難しくなってきたあたしは、口から嗚咽(オエツ)を漏らした。

そんなあたしの背中には小さな手が置かれている。


「っふ……っふっ……ひっ……」

罪悪感ですっかり冷えてしまったあたしの体はあたたかな心に触れ、涙を流す。





やがて流れ出る涙のすべてを出しきると、あたしの瞼(マブタ)はまた、落ちていった――……。