――この子、祈ちゃんって言うんだ。

「おねいちゃん、なかないで。イノがわるものやっつけるから、ね? えいっ!!」

ぽすんと軽い音がしたかと思うと、祈ちゃんは自分の父親である男の人の肩を何度も叩いた。





「いたっ、祈、痛い」


「いたくない!! ないてるおねいちゃんのほうが、いたいもん!! パパはいたくないの!!」

祈ちゃんは、どうやらあたしの心の傷のことを言っているみたい。


……ああ、この子は知っている。

目に見える傷よりも、目に見えない傷の方がとっても痛いっていうことを――……。


「……ふぇっ」

そう思うと、また涙が流れだす。


だけど、今度の涙は違う。

……それは優しい、とてもあたたかな涙だった。



すると、あたしの口からはまた謝罪の言葉があふれ出す。上辺だけじゃない、心からの謝罪が――……。



「ごめんなさいっ」

――引っぱたいてしまって……。


「ごめんなさい」

――痴漢よばわりしてしまって……。


「ごめんなさい」

後先考えず、行動してしまって……。


「……ごめんなさい」

父親を失くしたあたしの……赤ちゃん。



「ごめんなさいっ!!」

たくさんの想いがあたしの胸に押し寄せてきて、涙が喉につっかえた。

今までの自分の行動を振り返ると、言葉では言いあらわせないほどの罪悪感が押し寄せてきた。

だから最後の謝罪は押し寄せてくる涙につっかえてうまく言えなかった。