「慶介ごめんなさい、少し遅れちゃった」

あたしはやや足早に彼の元へと歩み寄り、彼がいる座席と向かい合っている椅子に腰掛ける。

すると彼の薄い唇が弧を描き、細くて涼やかな瞳があたしを映した。


「やあ、美樹。俺もさっき来たばかりなんだ、気にしないで。ところで今日も可愛いね」

薄い唇から紡ぎだされる言葉はあたしの頬を赤く染めさせてくる。


彼はいつも、とてもキザだ。

あたしはそれに慣れることがない。

きっと永遠に慣れないとも思う。


「今日は君からのお誘いだなんてね、いったいどういう風のふきまわしかな?」


テーブルに頬杖をついてあたしを見る慶介。

彼はどんな体勢をとっていてもカッコいい。

おかげであたしの頭の中は真っ白だ。

何も言えなくなってしまう。


沈黙したまましばし彼に見惚れていると……。



「美樹?」

整った男らしい眉が垂れ下がった。

眉間に皺が寄っている。



――あ、しまった。

あたしは今、彼を誘った理由を訊(キ)かれていたんだっけか……。


考えることをやめてしまっていたあたしの頭が急にフル回転しはじめる。

おかげでテーブルの下で組んでいる両手はヘンな汗をかいてしまっていた。

あたしの視線はもちろん、慶介から外れて組んだ手の上にある。


『話したいことがあるの』

そもそも慶介がこのレストランを予約したのは、あたしが彼にそう言ったからだ。