「あの、貴方が看病してくださったんですか? ありがとうございました。

あたしならもう大丈夫です。奥さんにもお礼を言いたいのですが、どちらにいらっしゃいますか?

お洋服までお借りしてしまって……」


あたしがそう言ったのは、土砂降りの雨の中、うずくまっていたにもかかわらず服が濡れていなかったからだ。

うわ掛け布団を少しめくり、自分の体をあらためて見下ろせば、朝着ていた服装とは違っていた。

だからきっとこの服は奥さんのものだ。

お礼を言わなくちゃと思ったあたしの問い。

だけど、彼はなんだか辛そうだった。




――どうしたんだろう。

もしかして奥さんと何かあったのかな?


喧嘩とか?


でも、この人はとても穏やかそうだ。

短気で気難しがりやな慶介とは違ってきちんと話しを聞いてくれそうな気がする。

どう見たって喧嘩なんてしそうにない。


奥さんに何かあったのだろうか?


「あの…………」

「妻はいないんだ」

言葉に詰まって男の人に答えを求めると、彼は眉尻を下げ、悲しそうにそう言った。


奥さんがいない。

それはいったいどういうことだろう?

その言葉が腑(フ)に落ちないのはあたしだ。


だってあたしは大雨の中、長時間うずくまっていた。服はびしょ濡れなはずだ。

しかも今着ている服はあたしの服じゃない。


そしてこの服はまぎれもなく女性が着る服だ。