彼には、『夕飯の支度を忘れていてごめんなさい』とそう言おう。
その結果――……。
あたしは潤さんに嫌われるんだ。
慶介の時みたいに、厄介がられて……。
あたしは当然、彼の顔を見れらるはずもなく、目を閉ざし、ドアノブに手をかけると、ゆっくりドアを開いた。
「ただいま……」
はじめ、微笑んでいたんだろう気配があった彼の言葉が途中で切れてしまった。
なんだか困っているみたいだ。
どうしたんだろうかと、そっと目を開けてみるものの、それでも勇気がないあたしはサンダルを履いている自分の足元だけを見続ける。
「美樹(ミキ)ちゃん? もしかして泣いてた?」
……どうして。
どうして、こんなにも知られてしまうんだろう。
人を気遣うことができる優しい彼はとても残酷(ザンコク)だ。
「ごめんなさいっ!! ついさっきまでうたた寝してしまってたみたいで…………夕飯の準備するの、忘れてて……」
「ああ、妊婦はそうだよね、睡魔に襲われるんだもんね。
ぼくの方こそごめんね、いつも大変なのにご飯作らせてしまって」
――違う。
違う違う、違う!!
潤さんは悪くない。
悪いのは何もできない役立たずなこのあたし……。
「ごめんなさいっ!!」
ブンブン頭を振って謝ると、涙が散るのが見えた。
ああ、でも泣き止まなきゃ!!
泣き虫でウジウジしているのも嫌われる原因のひとつだ。



