「っふ、あ~~~」

へなへなと膝を折り、玄関でへたれこんでしまった。


……潤さんって、ああいうセリフ。言い慣れてるのかな?

ドキドキしすぎてあたしの心臓が止まっちゃいそう……。



でも、そりゃそうだよね、彼はなにせ過去には素敵な奥さんがいたんだもの。

潤さんはそうやって沙良(サラ)さんにたくさんたくさん愛情を注いだんだろうな……。


そう思うと、ちょっぴり沙良さんに妬(ヤ)いてしまう。

でも、ヤキモチを妬くなんてあたしにそんな権利はない。


だって、潤さんはきっとあたしの身の上のことを心配して一緒に暮らそうって言ってくれたんだもん。

そりゃ、彼はあたしを好きだとそう言ってくれたけど、でもそれは本音じゃなくて建前(テテマエ)にすぎない。


好きと言われてキスされたけれど、でも男性は相手が女性なら誰にでもそういうことはできるでしょう?

現に、慶介は奥さんがいるのにあたしとキス以上のことをやってのけた。

だから潤さんだってきっとそう……。



……だって、だってね。

彼からは『一緒に暮らそう』って言われたけれど、『奥さんになってください』とまでは言われてない。


これから成長していく祈ちゃんは思春期をむかえるし、お母さんが必要だ。

潤さんは男性で、家を守るためには収入がいる。

仕事をしなければならない。

だから奥さんが必要だと、彼はそう言った。


――所詮(ショセン)、あたしは亡くなった奥さんの身代わりにすぎない。