こんな感情は潤さんがはじめてだ。


正直、自分でもどうしていいのか戸惑ってしまう。


……どうしよう、どうしよう。

繋いでいる手の中、ヘンな汗まで出てきてるよ。


この汗は夏だから暑くてとかそういうんじゃない。

あたしの体のすべてが潤さんが好きだって反応しているんだ。



ドクドクと刻む心臓の音が体中に響く。

どうかこのドキドキが潤さんに知られませんように……。


そっとおかしな願いを心の中でしながら、少し俯(ウツム)き加減で彼の後ろ姿を見つめ、家に戻った。



「じゃあ、行ってくるね」

「行ってらっしゃい」

時刻は11時。

祈ちゃんを幼稚園に送ったあと、次は潤さんが少し遅れて仕事へ向かう。

家事は分担されていて、お洗濯は潤さんの持ち分。

その間にあたしは潤さんに渡すお弁当の用意をする。

中身は、祈ちゃんとおそろい。

彼女が大好きなタコさんウィンナーは必ず入っていて、あとは日によって具材を変えている。


あたしは玄関に立つ彼にお弁当を手渡し、いってらっしゃいの挨拶をするのが日課だ。


「あ、そうだ。祈は今日、母さんと一緒に夕飯を食べて8時に帰って来るってさ。

幼稚園に迎えに行くのは母さんがしてくれるから、君は迎えに行かなくていいよ」


「えっ? そうなんですか……」

祈ちゃんが通っている『かなりあ幼稚園』はお昼3時までで終わるんだけど、預かってくれるのは5時まで大丈夫らしくて、あたしがいない今までは潤さんが仕事を終えた5時ギリギリで迎えに行っていたらしい。