――ああ、でもダメ。

だってあたしの顔、ものすごく熱いの。

耳まで真っ赤になっていることが自分でもよくわかる。

きっと彼はあたしが見惚(ミト)れていたことに気づいている。


「行こうか」

だってその証拠に、潤さんはあたしの耳元に優しい声でささやいてくる。

それにそれに、何をするでもなくぶら下がっていたあたしの右手が彼の手によって掬い取られてしまった。


あたしの右手は今、彼の左手の中にある。

彼と繋いでいる右手が熱を発してピリピリする。

おかげで普通に呼吸することさえもできなくなってしまう。


慶介と付き合っていた時はどうだったっけ……。

――思い出せない。

手は繋いでいなかったような気がする。


そういえば、彼とは人前でイチャイチャすることはなかった気がする。

今思えば、部屋の中でただ愛し合うだけだった。

あたしも彼はそういうのに興味がないんだと知ってたから特に気にもしていなかったっけ……。

仮に、慶介と手を繋いだら、今の状況みたいになっていただろうか。

……ならなかったかもしれない。


――きっと潤さんだからだ。

慶介に熱を上げていた時よりも、潤さんへの『好き』の方が大きく膨らんでいるんだ。

あたしは誰よりも潤さんを好きになっている。

そして、こうして手を繋いでいる今だって『好き』っていう気持ちが膨らみ続けている。