『君を守りたい。

ただそれだけなんだよ……』


俯けた耳元にそっと愛を告げる。


「……あたし……本当はすごく心細くて……。

ひとりで子供を育てる勇気さえなくて、でも、子供を見殺しにすることもできなくて」



「もういいんだ。あとはぼくたちに任せてくれればいい。

なんたって、育児のエキスパートのぼくの母親だっているんだから」


「でも……お母様とお父様はなんておっしゃられるのか」

「母さんはもちろん承諾済みだし、我が家の家系は女性が強いからね。父さんはもちろん、母さんの意見に逆らえないよ」

母さんのこれは事実だ。

ぼくの父親は口が達者な母さんには勝てない。

――いや、母さんに勝てる存在はいないんじゃないか?

なにせこの28年間の中で彼女が敗北した姿を一度だって目にしたことがない。


そんなことを考えてしまうと、ついつい眉間に皺が寄ってしまった。


「それは……とても頼もしいですね」

ぼくがうんざりしていると、クスクスと笑う声が聞こえてきた。

その声がとてもくすぐったい。


だけど笑い声だけじゃなくて、笑顔も見たいんだ。


両手で彼女の頬を包み、彼女の顔を持ち上げる。

そこに見えたのは、大きな目を潤ませ、頬を染めた今まで見たことがないくらい、可愛らしい表情だった。


――もうだめだ。

これに耐えるだけの理性はもう、ぼくの中にはない。