「好きだよ」
だからどうか、もうひとりで抱え込まないで――。
もっとぼくを頼って……。
そういう意味を込めて愛おしいという感情を口にする。
「……でも、でも、潤さんには奥さんが……」
だが、美樹ちゃんはやはりなかなか観念してくれない。
また顔を俯け、美樹ちゃんの頬に触れようとするぼくの手をさりげなく避ける。
「彼女はもう天国に行ってしまった。そうだろう? ぼくには妻が必要だし、祈にも母親が必要だ。そう思ってはくれないかな?」
ぼくの必死な説得に、首を横に振る彼女はとても頑固者だ。
「でも、あたしは田舎者だし、美人じゃないです。お腹には違う人の子供だっているし……」
それは麻生 慶介に裏切られた傷が深い証拠だ。
彼女は自分の容姿に至っても自信をなくしている。
なんということだろうか。
ぼくを魅了してやまないというのに、彼女自身が自分に対して自信がないだなんて……。
「美樹ちゃんは可愛いよ。
君はぼくの理想の女性像そのものだ。
お腹の子は……ほら、血が繋がっていないのは祈だってそうだろう?
でも、祈は君をとても信頼しているし、それに君こそがお母さんだと思っているんだ」
それは、先ほど車内で何度も『ママ』と呼んでいたんだから、もうすでに立証済みだ。
「美樹ちゃん、お願いだ。うなずいてくれないかな」
もう限界だった。
これ以上打ちひしがれる彼女を見たくはない。



