俯いている彼女の頬を伝い、フローリングへとひと雫――するりと落ちたのは、美樹ちゃんが流した涙だ。
そこでぼくはようやく彼女がぼくを異性として好きになってくれているんじゃないかということを理解した。
――ああ、どうしよう。
早く誤解を解かなければ!
ぼくも美樹ちゃんが好きだと言わなければ!!
そう思うのに、嬉しくて心が弾む。
「美樹ちゃん、ちょっと待って!! あのね、ぼくが一緒に暮らさないかと訊(キ)いたのは君と離れ離れになるのが嫌だからだよ? ぼくも君が好きだっていうことだよ?」
慌ててそう言ったのは、感極まった彼女がとうとうすすり泣きをはじめてしまったからだ。
ぼくは美樹ちゃんへと駆け寄り、安心してもらうために縮こまっている肩に手を乗せた。
だけど、美樹ちゃんは安心なんてしてくれなかった。
肩を震わせたかと思うと、俯けていた顔を上げて今度はぼくを睨んできた。
頬には涙がいくつもの線を描き、伝っている。
「ちがいますっ、潤さんは優しいから声をかけてくださっているだけです!!
だって、だって……あたしに赤ちゃんがいるって知ってから、あたしと目を合わせてくれなかった」
無視にも似たぼくの態度がそれほど彼女を傷つけていたのかということを、今、あらためて気づかされる。
ぼくの態度に傷つきすぎた彼女だからこそ、ぼくと両想いなんだと信じることができないのだ。



