その表情は、『ぼくが言っている言葉が信じられない』とそう告げているようだ。
それはきっと5日前から今の今まで美樹ちゃんに話しかけることさえもなかったことが原因のひとつなのかもしれない。
それもそうだ。
なにせ、わずか数時間前のぼくと現在のぼくのセリフや態度は180度違っているのだから……。
「あの……あたし……。いいんです、お気遣いなさらなくて……。」
いったい何がいいんだろうか。
ぼくにはさっぱり意味が分からない。
あんなことがあってから、彼女がはじめて発せられた言葉に首をひねると、美樹ちゃんはふたたび重い口を開いた。
「助けに来てくださっただけでとても嬉しいんです。おかげで、赤ちゃんを失わずにすみました。
もうひとりで生きていけますから……」
そう言った彼女の視界にはもうぼくはいない。
顔を俯(ウツム)け、ただ自分の素足を見るばかりだった。
だが、残念ながらぼくの意志はすでに決まっている。
さっき、母さんにも背中を押してもらったんだ。
美樹ちゃんと再婚すると決めた以上、彼女の決定的な否という言葉を聞くまでは素直にうなずけるはずもない。
美樹ちゃんがいなくなったと知った時、とてもじゃないがそれに耐えうるだけの力はぼくにはなかった。



