沙良じゃない女性を想うこともきっと大切なことだと、今ならそう思える。
もう一度、独身に戻ったつもりで美樹ちゃんに告白してみよう。
決意すると口元が自然と引き締まった。
体中に力があふれてくるのがよくわかる。
「ひとふんばりなさいな」
母さんは深くうなずき、ぼくの手へと腕を伸ばすと軽く叩いて励ましてくれた。
話がようやくまとまった頃、ちょうど美樹ちゃんが寝室から台所へやって来たのが見えた。
服装は、麻生 慶介と会うために着たスーツの代わりにふんわりとしたレースが刺繍(シシュウ)されている白のワンピースを身につけている。
スーツ姿よりもその服の方が春らしい可憐な彼女にはずっと似合っている。
そんな彼女を見ると、引き締まっていた口元が勝手にほころぶ。
対する彼女の方はといえば、ぼくと母さんが真剣な話をしていたことを感じ取ったのか、入口の方で入るかどうしようか迷っているらしかった。
慶介と会った時より表情は少しずつ穏やかさを取り戻してきているものの、まだ強ばっている。
それは、麻生 慶介によって生み出された恐怖心が完全に取り払われたというわけでは決してないことがうかがえた。
「じゃあ、お邪魔虫は退散しようかしら」
母さんは立ち上がり、美樹ちゃんがいる台所の出入り口へと向かう。
「あの……」
「あとは潤に任せなさい。けっして貴女を悪いようにはしないわ」
彼女の細い肩に軽く手を置き、そして母さんは家を去った。



