それでも仮に美樹ちゃんがぼくを受け入れてくれたとして、彼女の子供が大きくなった時、ぼくと血の繋がりがないことを彼女の両親は非難しないだろうか。


一抹(イチマツ)の不安がぼくの胸を過ぎる。


だからつい、決意したぼくの口は閉じてしまう。

テーブルの上で絡めていた指を握りしめ、どうしたものかと考えていると、ふたたび母さんが口を開いた。


「ねぇ、潤。亡くなった沙良さんのことを忘れられないくらいとても愛していたことは知っているわ。

でもね、沙良さんと美樹ちゃんは別の人間よ?

彼女はもう天国でしかあなたたちを見守ることしかできないの。


だけど、貴方も祈ちゃんも、この世界に生きている。

もう一度幸せになる権利だってあるんじゃないかしら?」


母さんの言葉はまさにぼくが言ってほしいものだった。

ぼくは、もしかすると沙良じゃない別の女性を愛するということを誰かに許してほしかったのかもしれない。


母さんのおかげで取っかかりが消え、一気に胸が軽くなったのを感じた。


「……ああ、知っているよ。

ありがとう母さん」


ぼくと慶介は違う。

そのことを母さんから教えてもらった気がした。


それに、ぼくと美樹ちゃんのお腹にいる子供は血が繋がっていないけれど、それを言うなら祈と美樹ちゃんだって血は繋がっていない。

ふたりが本当の親子に見えるくらいとても可愛らしいものなんだから、ぼくにだってできるはずだ。