ぼくは高ぶった感情を鎮(シズ)めるため、目を閉じて深く息を吐いた。
「それで、彼女を連れ帰った貴方はいったいどうするつもり?」
どうやら母さんが知りたかったのは美樹ちゃんの身の上の話ではなく、ぼくの意見だったらしい。
ぼくは閉じた目をふたたびそっと開けると、慶介に言った言葉を口にする。
「一緒に暮らそうと思っている」
たった数文字でしかないその言葉は、だが、それだけにとても重いものだった。
美樹ちゃんの命と、そして彼女の赤ちゃんの責任がぼくの両肩に伸し掛ってくるとても重大なものだ。
生半可な決意では口にはできない。
「それは、美樹ちゃんと再婚するということ?」
それは母さんも知っているようで、真剣な眼差しがぼくを射抜いてきた。
『再婚』
それを考えると、どうしていいのかわからなくなってしまう。
だってぼくは、沙良(サラ)こそが最愛の女性だと思い、彼女と結婚したんだ。
それを、ほかの女性を愛してしまったから再婚するというのは、沙良を裏切ることにならないだろうか。
状況こそ違えど、ふたり目の妻を持とうとするぼくも麻生 慶介のような人物になっていないだろうか……。
それに、美樹ちゃんの意見だってある。
いくらお腹の中に子供が宿り、ひとりで過ごすには心細いとはいえ、彼女は果たしてこんな自分勝手なぼくを受け入れてくれるだろうか。