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「よかった、美樹ちゃん無事だったのね!!」

母さんは、我が家に戻った美樹ちゃんの姿を見るなりそう言うと、安堵(アンド)の表情を浮かべていた。


……にもかかわらず、ぼくを見る目はとても厳しい。

睨(ニラ)みをきかせてくる。

この意味はよく知っている。

『彼女に何があったのかを詳しく聞かせなさい』

そういう目だ。


ぼくは美樹ちゃんと祈の傍にいたい気持ちをぐっと堪(コラ)え、ふたりを寝室で休ませると、母さんと一緒に台所のテーブルに移動した。


家を出た時は、キッチンの小窓から見える外はあんなに夕焼けの赤が空いっぱいに広がっていたというのに、もう薄暗くなりつつあった。

それは、まるでついさっきあった出来事が夢の中のようにも感じた。



「美樹ちゃんのお腹の子供はぼくの子じゃないんだ」

まずは母さんの誤解から解かなければと、ぼくは静かにそう告げた。

ぼくと向かい合うようにして座っている母さんは、どうやらもうすでにそのことを知っていたようだ。

驚きもせず、ただぼくを射抜くようにしてじっと見つめていた。


「『彼』は奥さんや子供がいるにも関わらず、不倫という形で美樹ちゃんと付き合っていたんだ。

彼女はそれを知らず、彼の子供を身ごもってしまったんだ……」


あらためてそのことを口にすると、麻生 慶介という人物がいかに利己的な奴なのかということがよくわかる。