それだけで、あたしの体から慶介に与えられた恐怖によって失ってしまった体温が少しずつ戻ってくるように思えるから不思議。


肩に添えられた潤さんの手を感じたあたしはそっと目を閉じる。

これが夢じゃないことを祈って――……。


そうして彼の登場によってすっかり抜けきってしまったあたしの体は、突然後ろに引っ張られた。

同時にあんなに間近にあった慶介との距離が生まれる。


それは腕が慶介の拘束から解放された瞬間だった。



……そして、背後にいた彼は凍ってしまった体を溶かすように両腕を巻きつけ、あたしを包んだ。



「怖かったね、だけどもう大丈夫だよ?」

そっと耳元でささやかれる言葉はあたしを落ち着かせてくれる、優しい声音。


「っふぇ……じゅんさん……」


もしかしたらこれはただの幻聴なのかもしれない。

あたしが良いように作り替えた現実ではない光景かもしれない。

だけど、もう十分だった。


今あるこの状況が現実じゃないなんて思いたくもないくらい疲労していたあたしは、拘束から解き放たれた両手を伸ばし、あたたかな彼の首に巻きつけた。



「お前は……美樹と同居している……」

そんな中、ぽつりと慶介がつぶやく声があたしの背後から聞こえた。

その声に恐怖をおぼえるあたしがいる。

ビクンと大きく体を震わせてしまった。


だけど、今度は寒さに凍えることはなかった。