その姿はとても高圧的で、どんなにリラックスできそうな広い部屋にいたとしても、そんな彼といると牢獄のようにも感じた。


慶介の言葉であらためて実感したのは、あたしの赤ちゃんについての執着心がとても強いということだ。


それも、中絶という最悪なもので。


対するあたしは、彼らしい冷徹な探り方に引きつった笑みさえも浮かべてしまう。


慶介はいつだって自分中心でいないと気がすまない。

傲慢(ゴウマン)で、そしてプライドがとても高い。


それをなぜ、付き合っていた頃はわからなかったんだろう。

こんなにどうしようもないくらい自分勝手で冷たい男(ヒト)なのに!!


過去のあたしに教えてやりたいくらいだ。


だけど、そんな慶介であっても子供を中絶させることは困難を極(キワ)めた。

というのも、中絶するには同意書がなければ法的に認められず、どうすることもできないからだ。


他人のために無駄な時間を費やすことがとても大嫌いな彼はだからこそ、こうして同意書を持ち、厳密に秘密を守ってくれるホテルまで用意してあたしを連れて来た。


あたしが書面に記入さえしてしまえば、慶介はおそらく本人の意見なんか関係なく、無理矢理にでも彼の知り合いに手術を頼み込み、中絶させてしまうだろう。


とてもやり手な彼は知り合いの医師に、『育てることもできないのに赤ちゃんができてしまって気が動転してしているんだ』と、いくらでも作り話をしてあたしから子供を奪う気だ。