というのも、目の前は倉庫で行き止まりになっていて、三又路(サンサロ)に差し掛かってしまったからだ。

これでは彼女がどこに向かったのかわからない。

躊躇(チュウチョ)しているぼくの脳裏には、今朝仕事に向かうぼくを見送ってくれる時に見た美樹ちゃんの泣きそうな顔が浮かんだ。


今、彼女と会っているのは麻生 慶介ではないかもしれない。

そう思うのに、顔も知らない彼と美樹ちゃんが話している姿を頭に思い浮かべれば、激しい吐き気が襲ってくる。

もし、美樹ちゃんと会っているのが麻生 慶介なら、なぜ彼は今になって彼女の前に現れたのだろう。

よりを戻そうとしているのか?


やはり君が大事だと――これから生まれてくる子供と共に暮らそうと、そう言うために呼び出したのだろうか。


冗談じゃない。

彼は美樹ちゃんをあんなに苦しめた張本人だ。

今さら彼に美樹ちゃんを委(ユダ)ねるなんてことを誰がさせるか。


彼女はもう、あんな奴のことは忘れるべきだ。

そして祈とぼく。

3人でいるべきだ。



そう思った瞬間だった。

ぼくの彼女に対する今までの感情がようやく理解できた。



――ああ、そうだ。


彼女を守りたいと思ったのも、

祈と共にいる姿を見た時、気持ちが安らいだのも、

彼女の笑顔で胸が熱くなったのも、


すべて――ぼくが美樹ちゃんを好きだからだ。


ぼくは、沙良と同じように彼女を愛しているんだ……。