『スーツ姿で、友人と――』

母さんの言葉がどうにも引っかかってしょうがない。


家に帰る車の中、美樹ちゃんのことを思うと気が気ではなくなったぼくは冷房さえも入れる時間が惜しくてそのまま無風の状態で帰ってきたからだろうか。

胸焼けと、頭の奥が熱を持っている気がする。



「おねいちゃん……」

「心配いらないよ、祈。ぼくが探してこよう」

大きな目に涙を溜めて瞳を揺らす祈を慰(ナグサ)めようと頭に手を乗せた。

会社帰りのその足で玄関のドアを開けると、「イノも行く!!」と大きな声がぼくの背中から聞こえた。

振り返れば、祈はキャラクターの絵が描いているお気に入りのビニール靴を履(ハ)き、つま先で地面をトントンと叩いていた。

彼女もついてくる気まんまんだ。



「祈、これは遊びじゃないんだ」


「いくいくいく!! じゃましないから、おねがいっ!! イノもさがすっ!!」

とても急いでいるのに、言うことを聞いてくれない祈は首を振り、イヤイヤを繰り返す。

こういう時の祈はぼくが何を言っても自分の意見を曲げない。


「母さん……」

祈のワガママに付き合いきれないと、母さんに助け舟を出せば、うなずきが返ってきた。


「祈ちゃんも気が気じゃないのよ。自分が昼寝なんかしないでずっと起きていたら、美樹ちゃんは家にいたかもしれないと思っているのよね」

母さんはしゃがんで祈に話しかけると――。


コクン。

祈は大きくうなずいた。