最後の方は金切り声になっていた。
「今から帰る!!」
母さんの言葉に妙な胸騒ぎを感じたぼくはカバンの取っ手を掴み取り、電話を切ると急いで会社を後にした。
会社から自宅まで車を走らせ着いた時間は夕方5時。
もしかすると美樹ちゃんはすでに家に戻っているかもしれないと淡い期待を寄せてみるものの、玄関を開けた途端、それはぼくの願望でしかないことを思い知らされた。
それというのも、玄関のそこには母さんの茶色い靴と祈のビニール靴しか見当たらなかったからだ。
「潤!! 美樹ちゃん、まだ帰らないのよ!!」
「パパ~、おねいちゃんは!?」
ぼくは肩に担いでいた機材やらが入った重たいカバンを大きな音を立てて床に置くと同時に昼寝から目覚めた祈が『おかえりなさい』の挨拶もなしに母さんと一緒になって駆け寄り、やはりとも言うべきか、彼女たちは美樹ちゃんのことを尋ねてきた。
――ええっと、たしか美樹ちゃんは母さんに春日公園に行くってそう言ったんだったよね。
もしかすると、彼女は本当に友達に会いに行ったのかもしれない。
ひょっとすると、ぼくたちがそこまで心配する必要はないのかもしれない。
数分後にはケロッとした顔でこの家の敷居を跨(マタ)ぎ、ただいまとそう言ってくれるのではないか?
焦りをおぼえる自分に言い聞かせるよう考えるけれど、出てくる答えは母さんと同じで、美樹ちゃんに何かあったのかもしれないというものばかりだ。



