母さんはやはり、ぼくよりも一枚も二枚も上手だ。



――美樹ちゃんはぼくの家にはいない。

彼女は外に出た……。


無愛想になってしまったぼくと過ごすのがイヤになったのだろうか。


母さんの言葉で知ってしまった内容を実感すると、苦しみだしたぼくの心は喪失感に襲われる。



「美樹ちゃんはどこに行ったの?」

彼女はたしか、明日から住む家を探すとそう言っていた。

まだ住む家は決まっていないはずだ。


自分ひとりならまだしも、彼女のお腹には子供がいる。

まさか行く宛もないままぼくの家からいなくなるわけはないだろう。


万が一にでも母さんにはどこへ行くか伝えていないかと思って尋ねてみると、「ええ」と静かなうなずきが返ってきた。

だが、その返事はどこか上の空のような気がするのは気のせいだろうか。


「美樹ちゃんね、友達と会うと言って一時間前に春日公園に行ったきり帰ってこないのよ。

……ああ、そう。

それよ、私が違和感を覚えたのは!!」


いったい何が『それ』なのか、よくわからない。

それでも早く話しをすすめてほしくて、急かしたい気持ちをひたすら抑え、決定的な確信をつく言葉が出てくるまでじっと待つ。


「彼女、スーツ姿で出て行ったのよ。おかしいと思わない? 友達と会うなら、ふつうもっとおめかしをするか、砕けた格好になるかどちらかでしょう? それなのに、まるでこれから仕事だと言うようにスーツだったのよ!!」